真紀ちゃんと課長のことが気になっていた祐里香は、仕事中もそれとなく課長に目を向けてみる。
特別変わった様子はなかったが、「小山課長、電話です」と近くの女子社員が声を掛けてもボ─っと一点を見つめて気付かないあたりは、やはりその影響なのだろうか?

お昼休みが待ち遠しかったあたしは、12時の鐘が鳴ると急いで真紀ちゃんを誘って社食へ行くことにする。

「で、真紀ちゃん。課長と何があったわけ?」
「えっと、映画を見に行ったんですね。ちょっと怖いやつだったんです。私、そういうのすごく好きで、でも怖いから課長の腕を掴んだんです」
「それで、それで?」

少々興奮気味のあたしは、食べることをそっちのけで身を乗り出すようにして相槌を打つ。
普通、こういうシチュエ─ションになったらチャンスだもん、彼女の手を握るわよね。
いや、肩に手を回したりするのかしら?

「大丈夫だよって、手を握ってくれるかなって思ったんですけど、全然そんなことなくて。私のことなんて目に入らない感じで、スクリ─ンに釘付けで…」
「えぇ~?課長、何やってるのよね。そういう時は、しっかり男らしくビシッと決めなきゃ」
「その後も手を握るどころか、私が腕を組もうとすると、スルリと逃げちゃうんですよ?食事をしてても目も合わせてくれないんです。話も聞いてるのか聞いていないのか、“あぁ”とか“うん”とかばかりだし。祐里香さん、どう思います?」

───それって…。
真紀ちゃんの話を聞いていて思ったのは、もしかして課長は恥ずかしい?のかもしれない。
だけど、子供じゃないんだから目も合わせないって…。

「課長って、実は恥ずかしがりやさんなのかしら?」
「そうなんですかね。私が無理に告白したりしたから、迷惑だったんでしょうか」
「それは、ないと思うけど」

課長だって、いくら押し切られたところがあったとしても、そう簡単に付き合うとは言わないでしょう?
迷惑だったってことは、絶対ないと思うのよ。
じゃあ、何で?って言われると困るけど…。