祐里香が朝出勤して更衣室に入るとエレベ─タ─が一足違いだったのだろう、ちょうどロッカ─のドアを開けようとしていた真紀ちゃんが目に入る。

「真紀ちゃん、おはよう」
「おはようございます、祐里香さん。コンサ─トは、どうでした?」
「そりゃもう、最高だったわよ。前から5列目の真ん中の席だったし、ずっと総立ちでアンコ─ルなんて何回も応えてくれたし」

思い出しただけであの時の興奮が蘇り、全身に鳥肌が立ってしまう。
でも、その前に稲葉に連れて行ってもらったお店で食べたプリンが美味しくて…って、あたしったら何どうでもいいことを考えてるわけ。

「そうなんですかぁ?いいなぁ。祐里香さん」
「ごめんね。あたしばっかり、いい思いしちゃって。稲葉も今度もらう時は、それとなく4枚もらえるよう頼んでみるって言ってたから」
「楽しかったんですよね…」

───ん?どうしたのかしら、真紀ちゃん。
なんか、元気がないみたいだけど…。

「うん、まぁね。相手が稲葉っていうのは微妙だけど、美味しいプリンのお店にも連れて行ってくれたし、久しぶりに楽しい思いをさせてもらったかな」

一緒に行った相手が稲葉っていうのは微妙なんだけど、隣にいてもあいつやっぱりカッコいいかなって、今まで付き合ったどの男よりも優しいし、第一あたしの好みのツボをよく押さえてるわね。
だから、すっごく楽しかった。
あれ?だけど、真紀ちゃんも小山課長とデ─トだったんじゃぁ。

「稲葉さん、祐里香さんのために素敵なお店に連れて行ってくれたんですね」
「真紀ちゃんだって───」

更衣室に続々と出勤してきた女子社員が入って来たため、祐里香は真紀ちゃんの側に近寄って耳元で囁くように会話を続ける。

「真紀ちゃんも課長とデ─トだったんでしょ?」
「えぇ、まぁ…」
「何かあったの?」
「それが…」
「何、どうしたのよ。この祐里香さまが、何でも聞いてあげるから。ね?」

あたしがそう言うと、言い方がおかしかったのか真紀ちゃんはニッコリと微笑んで頷いた。
それにしても、課長と一体何があったのかしらね?