コンサ─トの席は前から5列目のちょうど真ん中で、ただでもらったというのにこんなにいい場所で見ても良かったのかと思うくらい。
そして、のっけから総立ちの大盛り上がりで、最後は何度もアンコ─ルに応えてくれた、最高のライブだった。

「もうっ、最高だった。稲葉、ありがとう」
「俺は、もらっただけだから」
「ううん。だって、あたしと来なくても良かったわけだし」

───そうよね?稲葉は、あたしと無理に来ることなんてなかったのよ。
なのに…。

「そんなことないよ。新井と来れて、楽しかった。俺こそ、無理に付き合わせたな」
「無理になんて、それはあたしの方だから」
「まっ、お互い楽しかったんだから、いいんじゃないか?」
「うん。そうね」

電車に乗って座っていたら興奮し過ぎて疲れが出たのか、あたしはウトウトしてきた。
こっくりこっくり、何度も稲葉の肩に凭れ掛かりそうになって…。
寝るのは遅くなったけど、その分起きるのも遅かったのに…。

「いいぞ?俺の肩に凭れても」
「でも…」
「ほら」

稲葉は、あたしの肩にそっと手を掛けると自分の方へ引き寄せる。
睡魔に勝てなかったあたしは、そのまま稲葉の肩に凭れて暫しの心地いい眠りについた。