「あっ、いたいた。祐里香、探してたのよ」

あたしはキャビネの前に椅子を持って来て資料を調べていると、一期上の理子がやって来た。
何度も探しに来たようだったが、あたしが隅に座っていたので気が付かなかったらしい。
彼女は短大の先輩で、祐里香のことをとても可愛がってくれていた。

「理子、どうしたの?」
「今度の金曜日に合コンするんだけど、そのお誘い」
「合コン?相変わらず、好きね」

理子は合コンが大好きで、他部署の人達や友人の知り合いなどとしょっちゅうやっている。
本気で相手を探しているというよりは、友人をたくさん作るのが目的のよう。
祐里香も何度か誘われて行ったことはあったが、色々な職種の人と話ができるのはとても楽しかった。
しかし、思うような人が現れたことはなく、その日限りで終わってしまうことがほとんどだったけれど…。

「まぁね。今回は社内でやろうってことになって、祐里香には稲葉君を誘って欲しいんだけど」
「稲葉を?」
「そう。彼、人気高いのよ。実を言うと、あたしも狙ってたりして。祐里香、同期なんでしょ?」
「そうだけど…」

───何で稲葉なの?っていうか、人気高いって。
確かにいい男だとは思うけど…。
だいたい、理子も稲葉のことを狙ってたなんて…全然、知らなかったわ。

「ヤバっ、もうこんな時間?お客さんにお茶出ししなきゃいけなかったのよ」

「じゃあ、お願いね」と言い逃げするように、理子は去って行ってしまった。
───はぁ…。
理子が稲葉を好きでも構わないけど、だったら自分で誘いなさいよ。
何であたしが、そんな役を引き受けなきゃならないわけ?
とは言っても、一応彼女は先輩だし、しょうがないか…。

なんとなく言いにくかったけれど、頼まれると嫌といえないところが祐里香のいいところなのか、悪いところなのか…。
機会を見計らって、稲葉を誘ってみることにした。