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「祐里香さん、おはようございます。昨日は、稲葉さんとあれからどこかに行ったんですか?」
「おはよう、真紀ちゃん。一軒飲みに付き合ったんだけど、あたしお酒があんまり強くないから、寝ちゃったのよね」
「えっ、祐里香さん。それって、お持ち帰りされたってことですか?」
「ちょっ、ちょっと真紀ちゃん。何、言ってるの?そんなこと、あるわけないでしょ」

───朝から、お持ち帰りなんて…。
真紀ちゃんったら、全く言うことが大胆なんだから。
いくら寝ちゃったからって、稲葉があたしをお持ち帰りするはずないでしょ?

「なんだ、そうなんですか?てっきり、うまくいったと思ったのに」
「何、うまくいくって。あたしと稲葉は、何でもないんだってば」

そんな話をしていると、稲葉が出社した。

「あっ、稲葉さん。おはようございます。昨日は、ご馳走様でした」
「おはよう、どういたしまして」

相変わらず、朝から爽やかな笑顔を向ける稲葉。
実を言うと、昨日は稲葉に連れて行ってもらったショットバ─であたしったら寝ちゃって、家まで連れて帰ってもらったのよね。
それも、ちょっとフラついてたあたしのことを稲葉は抱きかかえるようにしてくれて…。
すっごく恥ずかしかったんだけど、なんかそれが嫌じゃなくって…彼は、どう思ったかわからないけど。

「おはよう、昨日はごめんね」
「おはよう。いや、俺こそ付き合わせて悪かったな」
「そんなことないけど…」
「まっ、あんまり男の前で寝ない方がいいぞ?俺だって、限界ってものがあるからな」
「へ?」

稲葉の言っている意味がわからず、首を傾げるあたしをニコニコしながら後ろで見つめている真紀ちゃん。
───何よ、限界って。
自分の席に座ってパソコンを立ち上げている稲葉に向って、心の中でそうあたしは呟くように言った。