坂井家の事情




でも言わない。


ムカつくから。


死んでも言わない。





周囲で歓声が巻き起こる。

悠太を捕らえようとしていたさやかだったが、するりと逃れられたのだ。

壁に掛けてある時計を見ると、残り5分を切るところだった。

さやかは力や体力では負けない自信があった。しかしスピードでは、小柄な悠太のほうが圧倒的に有利だ。


彼は一体何を仕掛けてこようとしているのか。

何かを狙っていることだけは分かったが、それが何なのかまではまだ予測できない。


(そろそろ、決着を着けないといけないわね)

相手が繰り出してくるローキックを躱しながら、思案する。


残り1分余り。


時間が経ちすぎてしまったようだ。

いつもとは違う悠太に対して、慎重になりすぎている。