坂井家の事情

本当はあんな条件を言うつもりなどなかった。

しかし売り言葉に買い言葉。思わず頭に血が上り、口走ってしまったのである。

(だって仕方ないじゃない)

思い返すだけでも、心が落ち着かなかった。



『遥香先生に毎日逢えるしな』



今朝悠太の近くを通った時にそんな声が聞こえてきて、思わず足を止めていた。

その嬉しそうな顔を見ているだけで、胃がチリチリと痛んでくる。



『昨日は遥香先生の前で……』

『お前のせいだぞ!』



最近はいつもそうだ。


いつも彼女のことばかり。


さやかは遥香に会ったことはなかったが、あまり良い印象を抱くことができないでいる。


なんだかムカついてきた。


今、目の前にいる悠太の顔を見ているだけでも、無性に腹が立ってくるのだ。

この沸き上がってくる感情が何なのかは、流石に自分でも察しはついていた。