さやかには、9歳以上年の離れた兄が3人もいた。
幼少の頃から彼らは柔道や空手、合気道などといった武道を一通り習わされていたが、一番末のさやかには「女の子だから」という理由で習わせることはなかった。
だが幼い彼女にとって、一番の遊び相手は兄たちである。
彼女は物心付く前から彼らを相手に、自然に武術を身に付けていった。特に格闘技好きな2番目の兄が、一番可愛がっていたという話である。
(何かを狙っているわね)
最初に悠太が向かって来た時、さやかはいつものように直ぐに決着を着けようとしていた。
彼は猪突猛進型である。
何の考えもなしに、ただ闇雲に突っ込んでくるだけなのだ。
それは避けるのも倒すのも、実に容易かった。以前に仕掛けてきた兄たちの攻撃に比べれば、軽くいなす程度である。
しかし今回は少し状況が違っていた。
いつもなら簡単に自分のペースへ持ち込めるのだが、今日の悠太はただ突っ込んでくるだけではなかったのだ。
恐らくは何か、一発逆転のようなものでも狙っているのかも知れない。
さやかはそう直感した。
(まあ仕方ないか。今回は女装が掛かっているんだものね)


