坂井家の事情

「それにさっきは羽田だったからまだ良かったけどさ、もし家庭科の渡部(わたなべ)とかだったら、どんな手段で退けばいいっていうんだよ」

「試験のことは訊けないし、それ以外で会話できるような共通の話題なんてあるか?」と翼が続けて問い掛けると、3人の間に沈黙が走った。

彼らはしばらく顔を見合わせたままだったが、最初にそれに堪え切れなくなったのは雅昭である。

「でも、まあ…ほら、渡部っていえば、もうババアだし?
用もないのにこんなところにまで、上がってはこないと思うよ」

雅昭があっけらかんと笑いながら答えた時、教室の中からは大きな歓声が聞こえてきた。3人は反射的に出入口へ顔を向ける。

「中は何だか楽しそうだな。
あーあ、俺も悠太と向島の対決を見たかったぜ」

「俺たち、貧乏くじを引かされている気分だよなぁ」と雅昭は頭の後ろで両手を組むと、羨ましそうに戸口を見詰めた。

「俺は別に見たいとは思わないがな」

対して、否定的なことを言うのは斗真である。