坂井家の事情

表紙は一般で市販されている、ごく普通の大学ノートである。その中にはテスト科目5教科分の内容が、びっしりと書き込まれているのだ。

圭吾からは事前に、もし5教科担当の教師がこちらへ近付いて来た場合にはノートを利用して質問攻めにし、上手く下まで誘導するようにと言われていた。

しかしそれ以外の科目だった場合には、当然このノートは使えない。その時には仕方がないから各々機転を利かして、同様に上手く処理してほしいと頼まれていた。

何れにせよ随分アバウトな命令ではあったが、要は「どんな方法を使ってでも、部外者を教室内には入れさせるな!」ということである。その役目をこの3人が引き受けているのだ。

「それにしてもこのノート、流石は川ぽんだよな。さっきも中を見たけど、かなり綺麗にまとめられているみたいだしさ」

「ああ。数学の羽田にも褒められたぜ」

二人が頻りに感心しながらそれを眺めていると、まだ顔色の戻らない斗真も近付いてきた。

「それ、確か後でコピー取らせてくれる約束だったよな」

「そうだよ。だからこの役目を引き受けたんだろ」

圭吾のノートは、見張りとしての報酬に含まれているのである。

「けどこのノートを使った場合には、質問内容も考えないといけないから、スゲー疲れるぞ」

再び深い溜め息を吐きながら、翼は近くの柱に腕を組んで寄り掛かった。