「腹黒ムッツリ」

「ドS」

圭吾の顔が更に引きつっていく。それは端から見ても分かるほどである。

「分かった、もういい。気が変わった。もう教えてやらん」

二人に背を向けた圭吾はついに拗ねてしまったのか、入り口の扉に手を掛けて中に入ろうとする。

「わーっ、ゴメンごめん、ちょっとふざけただけなんだ」

ここで悠太は肩を掴み、慌ててそれを阻止した。

もしあのさやかに勝つ方法――必殺技が本当にあるというのなら、その方法を知りたかった。

今日はいつもとは違うのである。

女装がかかっているのだ。

何が何でも勝ちたかった。今は藁にも縋り付きたい気分である。

「だから頼む! もしさやかに勝つ方法があるんだったら、教えてくれ!!」

悠太は必死の形相で、圭吾に迫っていた。







「だったら、そろそろ始めましょうか」

さやかは身構えると悪魔の微笑のように、口端を静かに上げていた。

「さあ、あんたからかかってきなさい。早くしないと時間もなくなるわよ」

そのままの体勢で彼女は右手の甲を突き出すと、更にこちらを挑発でもしているかのように指を動かしてくる。

実際、挑発しているのだ。

悠太は「それが女のやることかよ」と内心呆れてはいたのだが、そのポーズは彼の心に火を付けるには十分だった。

(こうなったらやっぱり、圭吾の言うヒサクとやらで決着をつけるしかないか)

あまり気の進まない感じはした。

が、やるしかないと決意し、夢中でその懐へ飛び込んでいったのである。