『12番、赤』

長髪のディーラーは、青ざめた顔で力無くコールした。
視線を感じて振り向くと、赤ら顔の男が立っていた。
太っちょクレイ、幾つもの実業で成功し、夜の世界に君臨する顔役。
このカジノのオーナー。
父さんの馬、バニールージュを奪った男。

『あんたにそんな才能があったとはね。大したギャンブラーじゃないか。』

父さんのトラクターを売った1000ドル分のチップを、私はアウトサイドの赤に賭け続けた。
球は7度続けて赤のポケットに転がった。私のチップは、128倍に膨れ上がっていた。

『ツキに恵まれているようだが、このへんにしておくんだな。12万ドルもあれば、あのオンボロ農場を取り返しておつりがくる。』
『それじゃ足りないわ』
私は叫んだ。
『全部取り戻す!農場も父さんの馬も!』
『おい、後悔することになるぞ?確かにあんたの親父は一流だ。あの馬は化け物だ。だが、あのオンボロ農場で日の目がみられると思うか?俺なら最高の環境であの馬をチャンピオンにしてやれる!』

怒気を含んだ酒臭い息が、私の頬にかかる。