ふわふわと流れる薄い雲が

そよそよと通り過ぎる風に乗って

キラキラと輝く星たちの頬を掠めていく。


ゆっくり ゆっくり

空を見上げながら歩いた家までの道。



「猫の爪みたいね」



空を見ながらお母さんが呟いた。

お母さんは昔から、細い細い月を見るとそう言うの。


私は猫とあんまり遊んだことがないから分からないけど‥

いつの間にか私も、こんな月を見るとそう思うようになってた。


ピカピカピカピカ
蒼銀の月。


同じ色のお父さんが出発したこの夜。

今日のお母さんは、寂しいというよりは嬉しい‥そんな顔をしていたの。



お風呂を出てリビングに入ると、大きなお腹をさすりながらソファに座ってるお母さんが居た。



「お風呂、空いたよ」



そう声をかけると、可愛らしい顔をこちらに向けてニッコリと微笑んだお母さん。



「心‥」



ーーっ!!



「少し、お話しない?」



私の‥名前ーー‥



「おいで」



そう言って自分の左隣をポンポンと叩いた。


私はコクンと頷き、その場所へと座る。


ずっとずっと呼ぶことはなかった私の名前。

久しぶりにその美しい声で呼ばれた。


なんだか、きゅぅんとほかほかした気持ちが私のナカに溢れてくる。



「いつ以来だろうね。2人でお話するなんて‥」



ふふふと静かに笑いながら私を見るお母さん。



「あの子、良い子ね」

「え?」

「千秋くん」



お父さんが付けた足元の間接照明だけが光る、薄暗いこの空間。



「心の初彼氏でしょう?お父さんがあんなに慌ててたの、初めて見たわ」



クスクスと肩を揺らすお母さん。

お母さんがお父さんを“お父さん”って呼んだのを初めて聞いた‥。



「え‥お父さんが慌てる?」

「ん。いつだったか、心が玄くんに抱えられて帰ってきた時、首筋に歯型がついてたことがあったからね」



「その時、お父さんは玄くんを殴ったのよ」って笑いながら教えてくれた。



「でも、あれをつけたのは千秋くんだったんですってね?あの時、玄くんは何も言わなかったけど」



聞こえるのは、静かな空間に響く、お母さんの穏やかで美しい声だけ。



「結局、千秋くんまで殴っちゃって‥。お父さんってば本当に心の事が大好きなのね」



ふっと瞳を細めるお母さん。