「まじ千秋くん格好良かったぁ」

「ほんとだよねぇ」

「いや。俺1人じゃ無理だったよ」

「紺野が居たから俺ら勝ったんだって」

「そーそー。次もよろしくな」



教室前の廊下のど真ん中で、楽しそうに大声で喋っている、赤い1年生の体操着軍団。


ーー‥邪魔。



「おらーどけー」



おちゃらけおやじが声をかけると、意外と素直に道をあけてくれた1年生。


その中にアイツが居ることがわかってたから、私は麗花とのおしゃべりを途絶えさせないようにしていた。


麗花も理解してる。


ザワザワがコソコソになるのを感じながら、すたすた通り過ぎる私たち。



そっちを見ないように。

そっちに意識を持ってかれないように。



麗花とのおしゃべりに集中してーー‥




パシッぐぃっ




ーーーーー‥え?




いきなり手首を引かれて“後ろの誰か”にぽすんと倒れこむ私。


その“後ろの誰か”は、細く引き締まった腕で私をきゅっと締め付けた。



「ごめんね‥」




私の肩に顎を乗せ、耳元で囁く高めの声。



‥ゾクッ



私のナカが震える。



「今日、待ってるから。あの場所で」



そう付け足して私を解放した“後ろの誰か”


私は振り返ることなく、つかつかつかつかと前を向いて歩き出す。



「あ、心!!ーー‥ってーー?‥ーー!…ーーー!?」



麗花がなんか言ってる。


わからない。

わからない。



耳に入ってこない。




麗花の声も

おやじの声も

ギャラリーの声も



ワタシには届いて来ない。




『ごめんね‥』




切なく、悲しみに満ちた音。




ーーなんで‥っ




私は、下唇を強く噛みながら、ただひたすら前を向いて歩いた。





今にも泣きそうな
蒼い空。


きっともうすぐ
紺色へと姿を変えて



遥か空の高みから
嵐を呼ぶんだ。




ぐちゃぐちゃ。


私の胸の中はもう、


光なんて



通さないかもしれないねーー‥