ぐちゅぐゅぺーおぇー

うがい薬って苦手なんだ。この‥なんていうか、味?



「大丈夫か?」

「ん。止まったみたい」



何回かうがいしてたら、吐き出す水がだんだん水の色に戻ってきた。

結構痛かったけど、歯まで真っ赤だったのは気持ち悪かったもん。

私の後ろの壁にもたれながら、腕を組んでずっと見ていた玄。顔を上げると、鏡越しに目が合った。



「ーーお前‥何があった?」



こないだと、同じ質問。こないだと、同じ瞳。



「ん?別に‥何も」



私は笑顔で答えた。

だって、心配かけたくないし。玄には関係ないし。
第一、何をどう、どこから説明すれば良いのかさえ分からないし。



「言えよ。そんな怪我までして帰ってきたんだぞ?」

「大丈夫だって。ただ、転んだだけだから」



くるりと振り向いて笑顔を見せると、何故か玄の顔は一層険しくなった。



「やっと消えたな」

「え?」



腕をほどいて近づいてくる玄。

その見幕に後ずさりしても、洗面台より後ろには行くことが出来なくて。



「歯型と、キスマーク」



長い指が首筋をそっとなぞり、怒ってるような‥でも悲しいような‥そんな不思議な瞳で私を見た。



「知って‥たの?」

「あぁ」



その声は低くて。



「‥男ができたってことか?」



その瞳は、だんだん鋭さを増していく。

私は答えられずにいた。だって、なんて言えば良いの?

答えられないまま、私は笑顔を貼ることができなくなって瞳を逸らした。



「男ができたとして、何で怪我して帰ってくる?」



何も言えない私。
何も‥何もーー‥


バァンっ!!


「言わなきゃわかんねぇだろっ!!」



横の壁をグーで殴った玄は、声を荒げて叫んだ。

そんな玄を見るのは初めてで‥恐くて、怖くて、こわくて‥

お腹の中が、ぎゅーって苦しい。


すると突然、ふわっと玄の香水が私を包んだ。



「わりぃ。どうかしてるよな、俺」



頭の上から聞こえる、玄のいつもの優しい声。

抱きしめられて、玄の鼓動が耳に直接聞こえる。大きく大きく波打つその音は、いつもより早い。



「心‥」



腕の力をぎゅっと強くして私の名前を呼んだ玄。


なんだろ、この感じ‥?



「母さんたちの所へ戻れ」

「う、うん」