「心‥やっぱり此処に居たか」



どれくらい時が経った?ーー月はかなり西へと傾いている。


月明かりでキラキラしてる紅茶色の髪。ーー綺麗だね‥。



「心配したんだぞ?蒼さんも魅さんも」



あの2人が私を心配?



「帰ろ?」



瞳を細めて笑う玄。
その“私”に向けられた笑顔は、とてもとても眩しくて。

私の闇を、すくい上げるように照らす。





ドクン‥ドクン‥

心臓の音が大きく聞こえるーー‥





「くろ‥と」

「ん?」

「玄っ!!」

「かはっ!」



ゴンっと額を玄の胸に押し付けた所為で
玄はむせかえったみたい。



「ゴホッゴホッーー‥っあー何すんだよっ」



私は玄の胸に顔を押し込んで、腰をぎゅーっと強く抱きしめた。



「‥心?」



心配そうに私を呼ぶ低い声。

この香水。

ーーー‥落ち着く。



何も言わず、ただ強く抱きしめる私を

玄は優しく頭を撫でながら、抱きしめ返してくれた。




「お前は、此処に居るよ」




ん。
私は、此処に居る。



「帰るぞ」



私の頭をポンポンと叩く玄。



「帰りたく‥ない」

「何言ってんだよ。2人とも、心配してんだって」



私は、玄のシャツをぐちゃぐちゃになるくらい強く握って、額を胸に付けたまま首を振る。



「はぁ‥離して」

「やだ」

「離せって」

「やだっ」

「離せっ!!」



びくっ



玄が怒ると、お腹の真ん中が締め付けられるように苦しい。

ぎゅーー‥って苦しいの。


私はしぶしぶ手を離した。ーーでも、玄の顔を見ることができない。



「‥ーーよっと」

「きゃっ!何すんのよ!!」

「心が帰ろうとしないからだろ?」



動き出さない私を見かねてか、お姫さま抱っこで私を持ち上げた玄。



「おーろーしーて」

「ヤダね」

「歩く!歩ける!」



このまま道路に出るとか恥ずかしすぎるよっ!!



「ダメだね。お前またどっか行くもん」



ーー‥“また”

そっか。玄はまだ、あの時の家出かくれんぼを覚えてるんだね?



「また‥玄が探し出してくれる」

「ははっ」



紅茶色のその瞳は、すごくすごく透明で綺麗。

この紅茶色が私の蒼を照らす時、私の心臓はドクンドクンと大きな音を立てるんだ。