ピーンポーン


今度は聞こえたチャイムの音。



「はーい」



階段を下りて玄関のドアを開ける。



「しーん♪ケーキ買ってきてあげたんだぞっ」



綺麗な顔をニコニコさせながら、白い箱をゆらゆら揺らす麗花。



「ありがとっ♪」

「具合は?」

「あ、別に何ともない。ただ寝坊しただけだよ」

「そ?」



麗花をダイニングへと通しながら、フォークを2つ手に取った。



「紅茶で良い?」

「うん♪アッサムでミルクで」

「あいよ」



ってか、麗花はアッサムのミルクティーかオレンジペコしか飲まないし。



「はい」

「ありがとっ」



紅茶の香りの中で、

ケーキはどっちが良いだの

紫藤のアナログおやじはどうだの

今日の授業はどんなだっただのと、



明るく報告してくれた麗花。

でもーー‥



「‥ねぇ、心」



心配そうに揺れる
玄と同じ、真っ直ぐで光を通す瞳。



「あんた‥何があったの?」



そしてまた、玄と同じ質問。



「私にも言えない?」



赤ちゃんの時から、ずっとずっと一緒に居る麗花。

そうだよね。


私‥ヘンだよね?



「私にも‥よく、わからないの」



麗花のその、光を蓄える紅茶色の瞳を見ながら‥

私は、ポツリポツリと思い出すように話した。





ーーーーーー‥





「そっか」



一通り話し終え、少しの沈黙の後に零した麗花の声。

何か‥考えてるような感じ。



「“私”を見つけてくれるのは、麗花たちだけだと思ってたの」

「うん」

「家のこととか‥知ってるし」

「うん」



何かを考えながら下を向いていた麗花の綺麗な顔が、すっと私に向けられた。



「心が“外”に出られるなら、私はソイツに逢った事は良い事だと思う。ただーー‥」



麗花の眉間に、一瞬シワが寄った。



「ううん、何でもない。心は、心の思う通りに進みなね?」



綺麗だけど、

どこか悲しそうな、どこか切なそうな‥

そんな微笑を私に向ける麗花。


麗花は、先を見ていたんだ。

だからーー‥



『心は、心の思う通りに進みなね?』



この時の私には

その言葉を理解することが‥出来なかったの。