時の境界線を越えて、もう霜月が始まっていた。

秋の花は下を向き、冬の支度を始める。


この花壇には、次はどんな花が咲くのだろうか。






ーーーーーーー‥







「私ね、頑張るから」

「あ?」

「イイオンナになって、いつか玄に女の子として見てもらえるように」



ドクンと鳴った心臓は、今度は苦しいくらいに
ぎゅーっと縮こまった。



「自信がついたら、もう1回言うから。覚悟しといてね」



俺のシャツの裾をきゅっと握ったその手は、昔と変わらず小さくて。



「‥言えよ」

「ん?」

「今‥もう1回言えよ」



目を開けて起き上がったこいつは、キョトンとした顔で俺を見てる。



「玄?」

「もう1回‥聞きてぇんだ」



なんだかすごく恥ずかしくって、俺は目の前の花壇を見ていた。



流れる沈黙は、俺の鼓動を早める。

顔が熱い。
胸が苦しい。


温もりが離れてしまった膝は、なんだかとても寒く感じた。



そんな膝に、そっと温かさが戻ってくる。


視線を落とせば、白くて細い、綺麗な腕。

小さな手。



「玄‥」



俺の名前を呼ぶ優しい声に、顔を上げ、真っ直ぐに蒼を見る。

吸い込まれてしまいそうな透明なその色もまた、俺の紅茶色を真っ直ぐに見つめていた。





ーーーー‥そして








「好き。大好きだよっ」





そう言ったこいつの顔は、とてもとても綺麗な“笑顔”だった。


嬉しそうで
幸せそうで
楽しそうで


切なくて



ーー‥儚くて。





その時、俺の中の何かが音を立てて崩れていった。

溢れる気持ちを抑えることができなくて、

溢れる涙を堪えることができなくて。



「‥っ!玄?」



抱きしめた身体は、昔と変わらず折れちまいそうで。

昔から変わらない髪の匂いが、俺の鼻を掠める。



「俺‥っ、お前に何にもしてやれない。‥っく、それでも、良いか?」



そっと抱きしめ返してくれたその手は、とても温かい。



「玄は、私の光だから」



お前のその笑顔を、ずっと、ずっと、俺の隣にーー‥











「俺、心が好きだっ」