辺りに響く、仮面でくぐもった笑い声。


珍しいんだ。

この人が、声を上げて笑うだなんて。


いつもは喉の奥を揺らして、クツクツとしか笑わないのに。



それが、こんなに声を出して笑ってる。




ズキン、ズキン、ズキン‥




その笑い声に呼応するかのように、私の胸の奥が痛くなった。

涙が溢れそうになった。




「はっはは‥はぁー」



やっと笑い終えたその人は、深い呼吸をして息を整える。

ーー‥そして言ったんだ。







「寝言は寝てから言え」






怒りを含んだような、
低い低い声。



「‥っ!!寝言じゃないっ」

「じゃ冗談は大概にしろ」

「冗談なんかじゃないっ」

「じゃなんだ?罰ゲームか?」



ククッと笑ったその人は、再び腕を組んだ。



「私は‥っ本気で」

「ふざけてる暇があったら、レイを呼んで来い。写真撮るぞ」

「、玄‥」

「早くしろ」

「くろ‥っ」

「黙れよ」



低い低い声は、この人の怒りの証。



「玄‥」



長い脚を持て余すようにクロスさせ、再び背もたれに腰を置く。

流れる沈黙に、あなたは何を思っているの?



「遅ぇんだよ‥」



流れる風も、過ぎゆく時も、凍てついたように私たちを囲む。



「今のが本気なら、俺も本気で答えてやる」



怒りで凍った周りの空気は、私の肌を‥ココロまでも貫いてしまいそうで。


その人は仮面に手をかけ、そっと外して見せた。

夜の光を背に浴びて、暗く影になった顔。


紅茶色のその瞳は鋭く闇を切り裂き、私へと一直線に光らせる。








「お前は俺にとって、妹以外の何者でもねぇ。それ以上でも以下でもねぇよ」

「……っ」

「あぁ‥お前は妹になんの嫌なんだよな?赤の他人宣言してたしな。じゃ、ただの幼なじみか」



淡々と紡がれる言葉たちに、私はついに溢れるものを堪えられなかった。



「泣くなよ。だからオンナは‥」



その人はポケットからタバコを取り出し、火をつける。

キィンと蓋を開ける音が、やけに響いた。


そう。


乾いた金属音は、乾いた空気によく響く。