ワタシの瞳の焦点が定まらなくなる。

視線はウロウロするばかりで、頭が考えることを止めてしまったみたいだ。


ーー‥いや。


オーバーヒートしてる。



彼の少し低くなった声は、続けてワタシの鼓膜を震わせた。



「マスカレードは、もう‥終わりっ」



彼の腕が更に強くワタシを締め付け、少し‥苦しい。



「心‥」



息が‥出来ない。



「嘘が、ヘタだね」



胸が苦しい‥っ



「仮面舞踏会は、もう終わりにしよう?」



ワタシは声を出すことが出来なかった。

だって、

なんて言ったら良いの?

どんな顔すれば良いの?



「俺、好きな子に嘘をつかせてまで‥手に入れようなんて思ってない」



彼の声が‥微かに震えてる。



「俺の後ろの壇上‥」



ーー‥壇上?



「そこに居るのが、誰だか判る?」



定まらなかった焦点が、1人の男の人を捕らえる。


紅茶色の髪を全て後ろへと流し、高い身長によく似合うタキシード。

顔全体を覆う、真っ白な‥仮面。



「もう、気づいてるんでしょ?」



ドクンと、ココロが波打った。



「心のココロには、誰が居る?」



ーー‥それ、は‥



「もう1度‥」



ゆっくりと身体を離した彼は、ワタシの左目を覆っている仮面にそっと触れた。



「もう1度、俺が仮面を砕くからーー‥」



黒い仮面の奥の、深い深い紺色が、ゆらゆらと揺れてる。



「ねぇ心?」



光が‥射し込む。



「もっと、」



それは、堕ちかけた灼熱の満月の輝き。



「もっと自由に生きなよーー‥」



その光は、美しいステンドグラスを通して、ワタシを照らし出す。


その言葉、覚えてる。

初めて逢った時にアナタが言った言葉だよ?


あの時からアナタは、
“私”を見抜いていた。



「仮面舞踏会は、終わりだ」



そう言って、彼はワタシの仮面を剥いだ。


ニコリと綺麗に笑うその顔には、どこか凛々しさを感じさせる。

初めて逢った頃の幼さなんて、もう‥ない。



「ごめ‥なさい」



砕いて散らしたワタシのココロ。

仮面に隠して封をした。

でも、アナタがそっとフタを開けてくれたの。


ねぇ、

“私”は

外に出ても良いのかな?


ほら‥今、

ーー溢れて爆ぜゆくわ。