ハロウィンの陽が沈む時

あの子はきっと
あの庭に居る。

どうするのかは、
君が決めれば良い。


どちらの香りを纏って、どちらの手を取るのか‥


お姫さま?
君が‥決めれば良い。




ーーーーー‥




「おっはよー心!」

「おはよっ」


教室に入れば、もうすでにお祭り騒ぎ。

うちの教室は何に使う訳でもないから、机や椅子が貸し出されて空っぽ。

すかすかしたこの空間で、みんなはもう夜のドレスや仮面を出して楽しそうに笑ってた。


「心‥あんた」


いきなり真面目な顔付きでワタシを見た麗花。


「どした?」

「話がある」

「何」

「何があったの?」


麗花の顔をまともに見てはいけない。

その紅茶色の瞳は、ホントにあの人にそっくりで‥思い出してしまうから。


「別に何も?」


ワタシはにっこりと笑顔で返す。


「心、あたしを誰だと思ってるの?」


ワタシの演技なんか通用しないんだ、昔からさ。

お祭り騒ぎの端っこで2人、窓に寄りかかりながら並ぶ。

背を窓に付け、腕を組んだ麗花は鋭くワタシを見ていた。ワタシはふいっと回って、開け放たれた外を見る。

大きな大きな校庭では、中等部の露店がザワザワと客を集め、もうすぐ幼等部のお遊戯が始まる。

10月最後の日にしてはとても暖かくて、生温い風が銀杏の葉を鮮やかに黄色く舞い上げる。



「心、今日‥兄貴も来るから」


ドクンーー‥

忘れなければならない。

パンドラに隠した自覚を悟られてはいけない。


「ふーん」

「兄貴がさ、マスカレードの進行役だって。笑っちゃうよね。父さんの代役かなぁ?あいつ、何の格好するんだろーー」

「ごめん麗花‥」


ワタシは麗花の話を切った。

それ以上、あの人の話をしないで。


「心……やっぱりあんた」

「ほーら諸君、席につけー」


ゆるーく陽気に入って来たのは、担任なわけで。


「せんせーい!席がありませーん」

「イイ所に気がついたな。実は俺も、そうじゃないかと思っていたんだよ」


みんなも先生も、いつもよりテンションが高くて変な方向に行ってる。


楽しい時間は、過ぎるのが早い。

お祭りを楽しんでいる間、麗花は何も言わなかった。大体の察しはついてるんだろう。

ごめんね。

でも、これがワタシの出した答えだから。


‥ごめんね。