「しゅーうー」

「なんだ、姫衣か」


あの頃の僕たちは、とてもとても穏やかで、すごくすごく仲が良かったんだ。

蜂蜜色の綺麗な髪の毛を揺らしながら、翡翠の色をした瞳が走ってくる。


「ちあのとこに行くの?」

「あぁ」

「姫衣も行くっ」


ニコニコと笑いながら過ごしていた日々。


「あ、愁一兄さん」

「おーぅお帰り、千秋。今迎えに行こうと思ってたんだ」

「お帰りなさい、ちあ」

暖かな日だった。
新緑が茂り、爽やかな風が吹き抜ける。


「なんで姫衣がここに居んだよ」

「2人に会いに来たに決まってるでしょう?馬鹿じゃないの?」

「馬鹿じゃねぇ!」


強気でいつも喧嘩腰の可愛い幼なじみと、口の悪い僕の可愛い弟。


「どうせ兄さんに会いに来たんだろ?」

「そうよ?分かってるなら聞かないでよ。べーっだ」

「こ‥のっ」


同い年だからかな?
この2人は、顔を合わせればすぐに喧嘩が始まる。


「やめろ、2人とも」

「だって姫衣がー」
「だってちあがー」

「くっくっくっ仲良いね、2人とも」

「「なっ!!」」


ごく普通の幼なじみ3人。ごくごく普通の子供だった。


「愁一、来なさい」

「……はい」


父はすごく厳しい人で、恐ろしいくらいに仕事中心の人。

家庭では僕に跡を継がせることに尽力し、常に英才教育に励む。


「ちあ‥」


父は千秋を見ない。
まるで、存在していないかのように振る舞う。


「千秋さま、姫衣さま、奥さまがお呼びでございます」

「……わかった」

「わかりました。ありがとう、凉」


その代わり‥って言ったらおかしいかもしれないけど、母は千秋を異常に可愛がる。

千秋は多少うざったく感じてるみたいだけど。



そんな、歪な家族。



だからかな?
僕は千秋が大切だった。
たった2人だけの家族。

そんな風に思ってた。

それは、千秋も同じだったと思う。




‥歪な、家族ーー‥