昼は蝉 夜は鈴虫

そんな複雑な季節。


月齢は巡り、今宵の姿は弧を描く

ーー下弦の三日月。




ーーーーー‥




「しーん♪」

「おぉ、麗花」

「明日なんだけどさ、何か食べたいものある?」



流鏑馬(やぶさめ)の大会も終わり、暇になったらしい麗花は、毎日のように生徒会を手伝ってくれる。



「明日なにかあるの?」

「心の誕生日なんです。会長も来ます?」



会長と麗花は仲が良い。同じ部活だからかな?

‥それを知ったのはつい最近なんだけど。



「心?決まった?」

「え?あー‥なんでも良い」

「それじゃまたバーベキューになっちゃうよ?」



そろそろ涼しくなってきた夕暮れ。

バーベキューでも‥良いかな?


なにより、あの狭い

いや‥狭くもないんだけど、あのダイニングっていう1つの空間に集まりたくない‥気がする。



「蒼さん、今日でしょ?帰ってくるの」

「う、うん」



久しぶりに会うお父さん。

えと、緊張‥シテマス。



「ねぇ麗花、バーベキューでお願いしますって優花さんに言っといて」

「おっけ。あ!ケーキはね、父さんたちの親友のパティシエさんが作ってくれるんだってさっ。楽しみだね」

「あの金髪のおっきい人と、ちっちゃい人?」

「ん。日本に帰って来てるらしいよ」

「そっか。楽しみだねっ♪」



ニッコリと笑顔になる私。

すると急に、麗花の瞳が悲しく弧を描いた。

一瞬。
ほんの、一瞬だけ。


それは、ずっと一緒に居た私だから分かるくらいの、微妙な変化。



「麗花‥?」

「ん?何?」

「うぅん。何でもない」

「変なのっ」



あははと声をあげて笑う麗花は、いつもの麗花。

見間違いーー‥?


‥麗花?



「ねえ、銀崎さん」



声の主へと顔を向ければ、切れ長で紺色の瞳を楽しそうに細める会長。


その瞳はあまりにも似ていて‥

私のお腹がきゅんと反応する。



「何か欲しいものある?」



欲しいもの?

そう聞いた瞬間に浮かんだのはーー‥



「‥香水」



なんでだろ?
なんか、その言葉が頭に浮かんだんだ。



麗花の表情の変化を気にしつつも、

もう、すぐに迎える明日。


祝ってもらえることがまだ嬉しい17歳。


家族3人が揃うことが嬉しい、下弦の三日月の夜。