「お前がさ、笑わなくなったって聞いたからさ」



あれ、なんだろ‥?



「レイが、俺の所為だって言うから」



紅茶色の瞳が‥



「はは、なんだ。普通じゃねーか」



私を見ていない‥?


皿を並べ終え、向かい合わせに座った私たち。



「なぁ、」



グラタンの焦げ目をフォークでガシガシと削りながら出す声は、いたっていつも通り。



「アイツとは、うまくいってんの?」



ズキ‥ンと鳴る心臓。
疼きだす左の首筋を押さえて、苦しくなるお腹を抑える。



「‥うん。何の問題もないよ?」



私は、ニッコリと笑顔で返す。

心配かけちゃいけない。悟られてはいけない。



「あそ。お幸せに」



その綺麗な顔に浮かべるのは、いたって普通の笑み。



「あんたは?」

「あ?」

「カノジョ」

「あぁ。俺がその気になりゃ、そんなんすぐに作れんのっ」

「サイテーだ。サイテー発言だ」

「うっせ」



いたって普通の会話。

なのにね?
なんだろ、この違和感‥。



「妹たちが他のオトコに落ちるのかぁ。なんか嬉しいような、悲しいような?」



クツクツと肩を揺らして笑う姿だって、いたって普通なんだよ?



「結婚前は父さんの前に、俺に挨拶させろよ?先に兄貴の眼で選定してやる」



遠い‥。



「レイは兄貴離れできんのかな?お前はもう平気だよな?」



遠いよーー‥





それから先の会話は、耳に入って来なかった。

何を言われても、おそらく相づちすら打ててないだろう。




なんでこんなに遠く感じるの?

なんでそれを悲しく感じてるの?




『知らねぇ』


そう言われて、心臓が痛かった。




『このボケナス』


また話が出来たことを嬉しく思った。




あなたの言葉に一憂して

あなたの言葉に一喜して



私のココロは忙しいんだ。



ぐるぐるぐるぐる‥


なんだろこれ‥。

気持ち‥悪い。





ーーーーーーーー‥





仮面を被った者同士

繰り広げるは

マスカレード。



見上げれば、

キラキラ光る半分と

闇に飲まれた半分と

それを取り巻く者達が

クスクスと静かに

この舞踏会を眺めているんだ。