過ぎ去りしは虚無の時。

紫色に変わる空すらも、

紅茶色と蒼が創り出すこの空間に

入ること、かなわず。





ーーーーーー‥





固まったままの私。

固まったままのその人。



このフリーズした時の流れを動かしたのはーー‥




~~~‥チャンっ♪




間抜けなオーブンレンジの音。


私はなんとなく緊張の糸が切れたようにガクッとなった。

どうやら、あっちもそうみたい。


ブタさんミトンをはめて、オーブンレンジから作っていたものを取り出す。



「あっつ!!」



奥まで手を入れたから、ミトンの被ってない手首を負傷。

するとーー‥



「んっだよ、貸せ」



って、私からミトンを奪って隣に座った大きな人。

香ってきた香水が、いつものじゃない事に、なぜかきゅんと心臓が鳴いた。



「どこに置くんだ?」



ちょっとイライラしたような、強めの口調で急くその人。



「あ、ダイニングのコルクの上にっ」

「あいよ」



あ‥れ?



「ってか何でグラタンなんだよ?夏の終わりだってのに」

「だって、麗花が好きだもん。それに、これはポテトグラタンですー」

「グラタンじゃねぇか」

「う‥グラタンですけど」



普通に喋ってる‥?



「これ、俺の分も入ってる?」



ぺろっと親指をなめるその人に、ドキンっ‥なんて鳴ってない。



「まぁ‥私と麗花だけじゃ食べきれない量‥だよね」

「あ?父さんは?」

「急な出張だって」

「母さんは?」

「お母さんと旅行」

「レイは?」

「部活の大会が近いから、遅くなるって‥」

「ふーん‥」



瞳を合わせる事なく、2人でカチャカチャと取り分け皿やフォークを出していく。


ねぇ、普通に喋ったよ?

ねぇ、なんで?

ねぇ、ねぇっ


聞きたいことがいっぱいだよーー‥




「「あのさ、」」




重なる声に2人ともピタリと動きが止まる。



「「何?」」



また‥。



「かぶんなよっボケナス」

「なっ、そっちがかぶってんじゃんか!このおたんこナスビっ」




「「ふっ‥ははははははっ♪」」





なんだ、普通じゃん。



「なんだ、普通じゃねーか」



トク‥ンーー‥





そう言いながら微笑むあなたは、何を思っているの‥?