私は玄関の前で立っていた。
 
入りたくない。
入ったらまたあの恐怖が蘇る。

そう思うと自然と体が家から離れていく。
ふと、表札が目に入った。
一番下には(山本清來)と書いてある。
これが私の名前だ。

その時、玄関から誰かが出てきた。
 「おかえり。」
それだけ言って出かけてしまったのは、私の母親。
名前は山本捺美。

きっと、男の所だろう。
あの女は男と金以外関心がない。

おそるおそる私は家の中に入った。
部屋の中はひどく散乱していた。
あちこちにお菓子のゴミやタバコの吸殻がある。

ガチャ。

玄関のドアが開いた。
母が男を連れて戻ってきた。
 「清來、用事があるから11時まで帰ってこないでね。」
そう言うと、私の手に1000円札を握らせて、私を家から追い出した。
用事の意味は知っていた。
男と遊びまくるのに私は邪魔なのだ。
ちなみにこれが毎晩繰り返される。