翌朝ーーーーー……
「お世話になりました」
私はナチさんに頭を下げる。
私たちは早々に村から出ていくことに決めた。私がカイルに早く出ようと提案したのだ。
正直、昨日の騒ぎのことではもうそこまで追われていない気がする。
でも、ここに居てはいずれ私の正体がばれ、ナチさんたちに危険が及びそうな気がしてならない。
カイルのはそんなことは言えないが、黙って頷いてくれた。
朝日が薄らと昇り始めるころ。ナチさんは途中に食べるようにと、小さな袋に食べ物を包んでくれた。
その優しさに涙がにじむ。
「気をつけてね。無事を祈っているわ。」
ナチさんは私の手をしっかりと握った。
隣でバルはカイルにギュッと抱き着いている。
「兄ちゃん、また来てね」
「あぁ。バル、母ちゃんをしっかり支えろよ」
バルはしがみついたまま頷いている。
外まで送るよ、とバルはカイルと手を繋ぎ歩いて行った。
私もナチさんにもう一度頭を下げ、その後を追って行こうとしたとき、ナチさんに呼び止められた。
「シュリ君」
「はい?」
「昨日の話の続き」
「続き?」
「そう。私は陛下を恨んでなんかいないわ」
話の続きとは昨日のキッチンでの話だった。
恨んでいないとう言う言葉に少しホッとする。
「はい……」
「陛下はね、あの戦争の後、わざわざ志願兵が出た村や町を回って、私達に頭を下げてくださったの」
「陛下が……?」
お父様がそんな事を?
志願兵が出た村や街なんてたくさんあったに違いない。
「国王陛下が頭を下げ、国民を労わって下さった。普通は出来ることではないわ。陛下は多くの責任を感じてくださっている。その気持ちだけで、もう恨む気持ちなんてなくなったわ。だから、今回の事はとても悔しい。心配だし、不安だわ」
でも、とバルさんは私の腕を掴んだ。
とても力強く。その眼は真っ直ぐだ。
「希望は捨てちゃいけない。……生きて」
「ナチさん……?」



