「おじさん、少年って言った?」
「あぁ。なんだ、大人だって言いたいのか?まだ早いんじゃねーか」


八百屋のおじさんはガハハと豪快に笑う。
髪を短くして、こんな服を着ているから男に見えるのか。
周りを見れば、確かにこんな格好は男だけ。
この国では女性がズボンを履くことはほとんどない。
動きやすい服を選んだから自然とズボンスタイルになってしまったのだが。
男の子に見られてなんだか少しショックだったが、これは逆に好都合だと思った。
使えると。


「おじさん、俺は大人だよ」


私はおじさんに向かってニッと笑う。
このくらいの年齢の子はまだ骨格が成長していなく、女の子に見える男の子もいるし、その逆もある。
服装だけで判断されるのは、今の私には都合がいい。

大きく豪快に笑うおじさんに挨拶をして、その場を離れた。

決めたわ。
男と偽ろうと。
その方が何かと安全かもしれない。
女ひとりでいるよりは心配が少ない。
王女と思われることもないだろう。
そして、いつか必ず……!


そう決心した時、辺りがざわめいた。
どうしたんだろう?
人がわらわらと集まっている所へ足を向けた。
近くに寄るとざわつきはハッキリした言葉に聞こえてきた。


「サルドア国の王様が通るみたいよ!」


その言葉にはっと表情が硬くなる。
今なんて……!?
サルドアの国王がこの通りを通るの?


「やっぱりサルドアの物になってしまったか」
「じゃぁ、うちの国王様はもう……」


人々は落胆の声を出す。
すすり泣く声も聞こえ、嘆く者もいた。
私は顔をふせ、ぎゅっと拳を握る。
悔しさを押さえ込んだ。


すると、今までざわついていた通りが一瞬にして静かになる。
見ると通りの奥から、サルドア国の仰々しい隊列が現れた。
堂々と列をなして通りを通っていく。
その中央には金できらびやかに飾られた馬車があり、中は見えないがそこに国王がいるのだろう。


「サルドアっ…!」



ギュッと拳を握りしめる。
しかし、その悔しさ、怒りは溢れるようにあふれでているように感じた。
目の前に憎き仇がいるのだ。
そう。
こいつらがお父様をっ!