むかしある村に、アルトという青年が住んでいました。
アルトには一匹、三毛猫がいました。
ある日アルトは
三毛猫を小さい部屋に入れて、ご飯も水もあげなくなりました。
何日も何日もあげないで、自然に死んでくれるのを待つためです。

かわいそうな三毛猫を見たくないアルトは、部屋にも行きません。
三毛猫は、ずっとアルトが来るのを待って、時々よわよわしい声で、「ミャ〜」となきました。
でもアルトは、
三毛猫がまだ生きているのがわかると、

「苦しまずに、はやく死んでおくれ。」と思いました。
アルトにとって三毛猫は、もうめんどくさくなって、いらなくなったのです…
アルトの村には、こんな言い伝えがありました。
飼い主に捨てられ、寂しく死んだ猫は、狐になって生き返り、飼い主を呪い殺すというのです。

冷たい床に伏せながら、アルトの三毛猫は、
「死んでも狐になりたくない。」と思っていました。
頭を撫でてくれたやさしいアルトを、苦しめたいはずがないからです。
でも、いくら待っても、部屋にアルトは来なくて、
おなかがすいた三毛猫は、死んでしまいました。

「ミャ〜」という声が聞こえなくなったので、アルトは静かに部屋のドアを開けてみました。
そこには、三毛の珍しい狐の死体があって、狐は、まるで自分を隠すように、大きいしっぽを抱いたまま、一人で寂しく死んでいました…

おわり