はぁ…私はため息をつきながら廊下を歩いていた。


(このままでいいのかな…)


さっきのユウ君の言葉が、まだ耳に残っている。



コン、コン


部屋の前に着くと、いつものように2回ノックをしてからドアを開けた。


ドアが開いたって事は、中に彼はいるって事で…


急に心臓がドキドキ言い出す。


『失礼しま〜す…』


きちんとドアが閉まっている事を目で確認した私は彼に近づいた。


『えっと…先生こんにちは…』


「ああ…」


書類に何か書き込んでいた彼は、私を見る事もなく、そっけない返事を返す。


(あれっ?)


今までとなんら変わりない彼の態度を見て、私はどんどん不安になる。しばらく二人の間に沈黙が続いた。


『先生…?』


私は不安に押し潰されそうになりもう一度彼を呼んでみる。


「…何か用か?」


『えっ…』


相変わらず顔は下を向いていて、彼の表情はわからなかった。


そっけない彼の態度に、泣きそうになる自分を必死に我慢しながら私は呟く。


『やっぱり夢だったんだ……』


そう言った瞬間、ぷっと彼が吹き出した。


私は何がなんだかわからず、彼をキョトンと見つめる。


「悪い、冗談だよ。」


そう言ってニッコリと笑った。


『………』


私がうつむいたまま黙っているとさすがにやり過ぎたと思ったのか彼は急にオロオロし出した。


「カスミ?ごめん。」


私の顔を覗き込みながら、優しく頭を撫でる。


(いま名前で呼んだよね…)


私は少しほっとして顔を上げた。

彼は私の目に微かに涙がたまっている事に気づくと、私の腰に腕をまわし自分の方へ引き寄せた。


『…先生!?』


「ごめん。泣かせる気はなかったんだ…」


椅子に座ったままの彼に、立っている私が抱きしめられる格好になっている。


私は彼の肩に腕をまわし、彼の温もりを確かめるようにぎゅっと抱きしめた。



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