「今日はいいお茶を飲ませてもらった。 また、近々来たら淹れてくれるとうれしいのだが?」

チャリン、と小銭の音が響く。

私はうなずきながらレジを叩く。

「・・今度はオーナーもいるかもだから、きっとおいしい紅茶が飲めますよ」

「そうだね。 でも僕はキミのお茶を飲みたい ・・・いいかな?」

心臓がドキリと跳ね上がった。
そんなこと言われると思ってなかったから。

私は自分でも分かるくらいに頬を真っ赤にしながら何度も首を縦に振った。

「そうか。 では、また」

そういってドアを開ける。

ドアはギイ、と古めかしい音を立てながらチリンチリンと軽快な鈴の音をたてる。

彼の夜の空のように真っ黒な髪が、風になびくのをぼんやりと眺めていると、ドアは自然とまた古めかしい音や鈴の音をたてながらバタン、と勢いよく閉まった。

とても、不思議なお客だった。

私の紅茶を残さず飲んで笑ってくれた。

しかも、また飲みたい、と。

一人でニヤニヤしながら彼がいた席を片付けていると、ふとソファにある物が置いてあった

「これは・・ ネックレス?」

シルバーの鎖に、雫の形をした真っ黒な石が付いたシンプルなネックレス。

よく見ると、石の中でオレンジ色の何かがうごめいているようだ。

私は気味が悪くなり、すぐにエプロンのポケットにしまった。

それが、彼との初めて逢った記憶。