彼はクスッと笑いながら窓際の席に向かう。

私はお冷やを持って彼の元へ行くと、彼はメニューから目を離さずに話し始めた。

「さて、僕に何を訊きたいんだ?」

お冷やを置きながら、ドキリと身体を強張らせた。

私はそんなに分かりやすいのだろうか…

「・・なんで私が質問あると思うんですか?」


あえて訊いてみる。

やられてばかりではこちらも気に食わない。

彼は少し驚いたようだったが、すぐにニヤリと不敵に笑ってきた。

「何、簡単なことだ。 キミは僕をさっきからチラッとうかがうように見て来てたからね 笑いを堪えるのに必死になってしまったよ」

ククッと噛み締めるように笑う彼を見て、私は顔が熱くなるのを感じた。

「あの、名前・・・ 教えてくれませんか?」

「・・・はぁ」

そう言ったきり、彼は黙り込んでしまった。


沈黙が流れる。

何か訊いてはならないことをきいてしまったのだろうか・・・

私はやっぱり訊くのをやめようと口を開こうとした時だった。

「・・・憑雲<ツクモ>と名乗っておこうかな」

「・・それって偽名?」

私はついそんなことを言ってしまった。

しまった、言わなければ良かった。

彼は複雑そうな顔をして笑っていたからだ。

「あぁ、ちなみに幽霊とかの憑くに雲だからそこらへんよろしく」

「・・はい、わかりました」

うまく笑えているだろうか。

今の彼を見ると、心臓を掴まれたような錯覚に陥れられそうになる。

苦しい。まるで私の周りだけ酸素が無くなったかのようだ。