「監督、わし、自分の力が上手くボールに乗ってないような気がするんすよ。部活のとき見たってつかぁさいや」
「ん、解った。君はパワーヒッターだと思うから必ず開花させてみせるよ、私なりのやり方でね」
和俊は首を傾げる。この人は何を言っているのだろう。なぜピッチャーにバッティングを求めるのだろうか。
もしかしてこの人、完璧主義者なのか?
「あのー、わし、ピッチャーなんすけど……」
反論してみたところ、予期せぬ言葉が返ってきた。
「あれ? 君は……、ピッチャーだったのかい? 私はてっきり野手かと思ったんだが……」
稲葉は腑に落ちないといった顔で少しの間和俊を見詰めた後、
「そうか……、ピッチャーかぁ……。ふうん……、ピッチャーねえ……」
と呟き、
「うん、解った。後で見てあげるよ。そろそろ時間だし教室に行こうか」
と話を締めた。言われて時計を見てみると、確かに始業の時間が近付いている。

