ここにいるかぎり

 

 ゆっくり階段を下りて
 台所で足を止めたとき、

 頬に違和感を感じて
 触ってみたら 濡れていた。


 涙だった。


 なんで泣いてるのか
 全然分からない。

 俺は那衣に
 何もしてやれてないのに
 泣くってどういうことだ。


 「…ッ!」


 舌打ちのような
 声にならない言葉を吐く。

 イライラする。


 何もできない自分が
 情けなくて 惨めで むかつく。

 俺は那衣を治せない。

 特別してやれることもない。



 俺はこれからも、

 どんなに腹を痛めても
 その意味をなさない現実に
 泣きじゃくる那衣を
 ただ見ているだけなんだ。