ここにいるかぎり

 

 「…」

 「………あれ?」


 俺を見上げたまま、
 那衣は涙も見せなければ
 怒りも 笑いもしない。


 きょとん


 そんな擬音がぴったりだ。


 「那衣…、きいてた?」

 「うん」

 「…」


 期待を大きく裏切られ、
 更に無反応という
 予想しなかった事態に
 俺はただ 肩を落とした。

 分かんない この人。


 ゆっくり 壁から離れると
 今になって
 那衣は へらっと笑った。


 「有基はしないよ、そんなこと」