目的の映画館に向かう車中、その中継を聞いていると、あたしは涙が込み上げて仕方がなかった。
孝明はすっかり中継に夢中で、アナウンサーの声に一喜一憂・・・・あたしの変化には気づかない。
その隙に、そっと涙を拭った。
思い出すんだよね。
夏になるたび、高校野球の季節が巡ってくるたび、必ずと言っていいほど何度も思い出す。
孝明が引っ越しのあいさつに部屋を訪ねた日の夜は、あたしの実家に帰省する日でもあった。
大きなバッグとお土産を抱えて部屋を出たところで、ちょうど孝明も部屋から出てきて。
「帰省ですか?」
「えぇ、まぁ・・・・」
「持ちましょうか、その荷物」
「え?」
「重そうですし。・・・・なんなら送りますよ。バスか電車か飛行機か分かりませんけど、夜に女の子を1人で歩かせられません」
買い出しにでも出るつもりだったんだろう孝明は、遠慮するあたしをよそに本当に送ってくれた。
マンションから歩いて15分くらいの場所にある、夜間高速バスが停まる停留所まで。
あたしの荷物を全部抱えて。


