『…うん。何度も断られたけれど、父さんは、毎日毎日会いに行ったんだ…。

母さん、言葉すら交わしてくれなくなったよ…。

そうして、1年程経った頃か、母さんに見合い話があると聞いて、父さん自信を無くしてしまったんだ。

急に、母さんの元へ行くのをやめてしまった…。


そしたらね、

母さんの方が会いに来てくれたんだよ。


綺麗な着物を着て走って来たんだ。


「どうして来てくれないの?」って…。


お見合いを抜け出して来たんだとすぐに分かったよ。

あんな綺麗な母さん見たのは初めてだった…。』



私は、父の母への想いが伝わり、涙が出そうになった。



『時間はかかったけれど、親友にも祝福されて、父さんは母さんと結婚をした。
風花…。

父さんは、少なくとも、親友から母さんを奪ったとは思ってないよ。

じゃなかったら、
あの日、母さんは父さんの所へは来ていない。

父さんの想いが、母さんに伝わっていたからだと、今でも、そう…信じている。』



『…ぅん。…ぅん…。』



私は何度も頷いた。

私も、そう思うから…。



『…さぁ、風呂でもわかしてくれないかぁ?なんだか急に、恥ずかしくなってきたよ。』



父は髪をかき揚げながら笑った。



『うん。今わかすよ!』



私は席を立つと台所を出た。お風呂場で蛇口をひねりながら、心が温かくなっているのを感じていた。