妖魔04~聖域~

速い。

だが、ナイフの軌道が縦か横さえ賭けで当たっていれば、全てはこちらのものだった。

そう、俺は賭けに勝った。

ナイフが持ち替えられていれば、それで良かった。

持ち替えられていなくても、それで良かった。

どちらにしても、俺にとっては好都合でしかないのだ。

「後者のほうが、若干ありがたみのある攻撃だったけどな」

「な」

不利だった状況は、有利な状況へと転換させる。

巻かれた手錠を盾にして、ナイフを防ぐ。

「ち!」

女の攻撃は鉄をも斬るが、腕までは到達しなかった。

音をたてて、割れた手錠が落ちる。

「面倒くせえことばっかりするんじゃねえよ」

女がもう一度攻撃しようとするが、自由になった腕は俺の利き腕だ。

女のターンは終わっていると言ってもいい。

女だろうが男だろうが、戦士であるのなら関係ない。

顔面に軽くジャブを繰り出し、緩んだところでボディーに一発。

「おご」

ナイフは握ったままだが、足の裏で手首を押して壁にぶつける。

手首の骨が折れ、ナイフは床へと落ちる。

「俺を殺す覚悟があるのなら、自分が死ぬ覚悟も出来てるはずだ」

次は首を蹴って、骨を折って殺すつもりでいた。

だが、煙の外から別のニオイがすると、何かが音を立てて飛んでくる。

俺は女から飛ぶように離れると、間を縫うように何かが通り過ぎていった。

煙はすでに晴れており、何かが飛んできた方を見る。

「面倒くせえな」

煙の外側に立っていたのは、髪が肩まである私服姿の女だ。

私服の女は、感情のない眼差しで見ている。