「じーん、じんじんじん」

外から聞こえてくる声は、断じて蝉ではない。

「うるせえ」

俺は自分の家で心地よく眠っていた。

ゆっくり寝ていたのにも関わらず、不機嫌になる理由を作るのは一人しかいない。

「テメエか」

布団から起き上がり、扉を開けると見知った顔がいる。

「幼馴染にテメエはないと思うぞ」

目の前の女は無愛想な顔をしている。

女は着物を着ており、額の真ん中にはコアが出っ張っていた。

髪は長く、水色で染まっている。

「テメエはテメエだ、昼寝の邪魔はするな」

眠さのあまり、欠伸を放つ。

「そう言うな。私はお前が好きだぞ」

「嫌いになって二度と来るな」

「起こしてやったんだぞ。私に貢げ」

手を出したところを、力強く叩く。

「ざけんな、消えろ」

女は俺の言う事を無視して、屋内に不法侵入してくる。

出会った当初の初々しさはどこにもない。

「君は妖魔の里の中で高レベルなぐうたら男だな」

女は無駄口を叩きながら、俺の布団で横になっている。

「テメエはそれだけを言いに来たのか。面倒くせえ野郎だな」

「野郎じゃない。素敵すぎる乙女だ」

目をキラつかせるが、一切トキメキを感じない。

「余計なことは言わんでいいから今すぐ消えてくれ」

「愛し合った者は一言一言が大切だというのに、何故凡人にはそれが解らんのか」

胸を押さえながら、胸糞の悪い演技を始めた。

女は虚言癖があるらしい。