「出来立てのほうがおいしいでしょ…? 多架斗くんには、おいしいもの食べさせてあげたかったのっ!」
「…!」
…は、恥ずかしい。
かすかに、耳に熱が灯った気がした。やっぱり俺だって、受験生と言えどそういう年頃なんだ。意識したって…お、おかしくはないはず、だよな。
「…おいしい」
「えっ…?」
満面の笑みを見せる愛沢に、自然と言葉が口から出ていた。直後に自分の顔がさっきの比ではないほどに熱くなる。あーやっぱ言わなきゃよかった!
しかし悶絶する俺とは裏腹に、嬉しそうに笑った愛沢を見ているとなんだか少しだけ胸の辺りが暖かくなった気がした。…なんだ、こんなに喜ぶなら両手を広げて「デリシャース!」とでも叫んでやれば…いややっぱ無理だ。そこまで体は張れない。
「ほっ、本当に!? 味付け濃かったりとか、油っぽかったりとかしない!?おいしい!?」
「…う、うん。ちょうどいい、けど…」
「…よかったぁ」
へにゃりと、今度は安心したように愛沢は笑った。愛沢は笑顔のバリエーションが豊富なのだ。というより、俺は愛沢の笑顔以外の表情を知らない。人生を楽しそうに生きてるやつとは、まさにこいつのこと。恋だって勉強だって、楽しそうにやってのけてしまう。愛沢はそういう種類の人間だった。
…俺から見て、だけど。
なんだかいつものようにずば抜けたテンションではなく、愛沢のその穏やかな表情に少しだけ気まずくなる。でも不思議と居心地は悪くなくて、これが俗に言ういい雰囲気なんじゃ…。
「じゃあこれからは毎朝毎昼毎晩毎日ご飯作るねっ! あ、挙式いつにする?」
「待て」
話が飛んだ。
「うん。多架斗くんのためならたとえ待ちぼうけでも待ってるよ! で! 私はやっぱりドレス派…」
「そうじゃなくてっ、そもそも結婚できねーよ年齢的に!」
「私たちの愛は何にも負けないよ!」
強すぎる。
呆れはしたものの、結局俺は愛沢のお弁当を残さず全部食べてしまった。
…から揚げが、おいしかったんだよ!