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「ほんっっっとうにありえねぇ!!」
バンッ!、と机を強く叩く俺に、友人である山瀬は表情をキョトンとさせた。
「あの女本当ありえねーよ! 普通嫌がられたら引くだろ! 何故引かない!?」
「何故と言われても…」
困ったように、あるいは呆れたように目を細める山瀬。他人事だと思って。
「何故メアドを知っている! 見ろこの履歴…授業中なのに五分おきにメールがくるんだぜ…」
「うわー…愛されてんな」
「重過ぎる…っ」
机に突っ伏す俺をなだめるようにして山瀬が「でもよ、」とつぶやく。
「かなりおいしいんじゃね? あんだけかわいくてスタイルよくて頭もよくて、運動もできて…正直うらやましいぜ。そうはなりたくないってのが大前提だけどな」
「なぁそれフォローのつもりなのか?」
「いやでも、うらやましいのはほんとだって」
山瀬はそう言うと、彼女からもらったらしい弁当の蓋を開けた。と言ってもそれはコンビニ弁当。温もりも何もあったもんじゃない。こいつには一応彼女がいるのだが、どうやらその彼女はかなり淡白らしい。付き合って三ヶ月経つのだが、未だに好きだと言ってもらえないのだとか何とか。
「お前の好物ちゃんと入れて、弁当作ってくれんだろ? 俺を見ろよ馬鹿野郎。幸せに気づけ」
「そりゃそうかもだが…けど俺、教えてないんだよ。メアドにしても、何が好きだとかさ。これって怖くないか? それとも俺がビビリなのか?」
「多少難があると思って」
「多少じゃねぇよ! この袖も! 体育から帰ったらほつれてたのがちゃんと繕ってあるんだよ! 間違いなくあいつだ…!」
「何でわかんの?」
「裏地に‘愛してる’って刺繍されてた」
「こっわ!」
さすがの山瀬もこれにはびびったらしい。自分の肩を抱き寄せるようにして大きく身震いしている。そうだよな、俺が一番怖い。