椎名 多架斗さまへ
  伝えたいことがあります
  明日の放課後、裏庭に
  来てもらえないでしょうか…?

手紙の最後には、‘3―B 愛沢璃梨’の文字が。知らない名前だったけれど、それでも無視するのは戸惑われた。いや、それは言い訳で要するに俺はこの時浮かれていたのだ。知らない女子からの呼び出しに。
放課後の呼び出しなんてあれしかないだろう。その、まぁ…こ、告白とか、さ。授業の内容もろくに頭に詰めず、大急ぎで手紙を握り締めながら走る。裏庭にはすでに一人の女子が立っていた。…か、かわいい。
その子は俺を見つけると「あ…、」と頬を紅潮させる。なめらかで白い肌に大きな瞳。しかも仕草までかわいいときた。自然と俺の顔も熱くなる。
「えっ…と、愛沢さん、でいいのかな?」
「うん。あの…多架斗くんって、呼んでもいい…?」
「かまわないけど…」
うわーうわーうわー、緊張してきた…とついつい下を向く俺。手紙はすでに俺の手の中でぐしゃぐしゃになっている。落ち着くんだ俺。頑張れ日本。(←もうダメかもしれない)
「あの、多架斗くんは私のこと覚えてないかもだけど…」
「は、はいっ!」
緊張で声が変になった。…かっこ悪ぃ俺。
「私っ、多架斗くんのことが好きなんです…!」
「っ、!」
「か、彼女にしてください…!」
顔を真っ赤にして言う愛沢さんに、俺の顔も真っ赤になった。激しく動機までしてきて旨がきゅんってなった。えぇぇ何だこれ。
俺は愛沢さんのことを何も知らないはずなのに、目の前の女の子がよりいっそうかわいく見えてきた。それと同時に安らぐような、優しくなるような気持ちが込みあがって…ってこれは恋か? そうなのか?
答えはとっくに俺の中で出ていた。けれどくすぐったいような恥ずかしさからかなかなかうまく言葉が出ない。
…でも、告白相手が黙ってたら不安だろうな。よ、よしっ…言わなきゃ!
「あのっ、愛沢さ…」
「多架斗くんが好きなんですっ! ううん、愛してる! 世界中の誰よりも! 一億年と二千年前よりも!」
「…え?」
そんな、俺が生まれる前じゃんか。
「ずっと見てたいしずっと話してたい! ずっとそばにいたいんです! 私と結婚してください!」
「え、えぇぇっ!?」
まさかのプロポーズ。
まだ付き合ってすらねぇよ。