「うふ、うふふー…照れ屋さんだもんね多架斗くんはっ!」
「なんてポジティブな」
「もう、しょうがないんだから…。ほら、目瞑って?」
「何する気だよ!」
寒気に襲われた俺が腕を振りほどこうと暴れるも、「私たちの腕は愛の絆で結ばれてるんだよっ?」と俺の腕をひねり上げやがった。ほどくどころかこの様ですか、そうですか。
「だから解いちゃやだっ! というより解けません」
「痛い! 離せ!」
「おはよーのちゅーは?」
「ないから! って痛い痛い痛い!」
肩が外れる!、と悲鳴をあげればようやく彼女、愛沢璃梨は「もうっ、しょうがないなー」と腕を正常に組みなおした。どうあっても離す気はないらしい。
「多架斗くんが冷たいっ! 私は多架斗くんが家を出る二時間前から待ってたっていうのに!」
「俺は自分に素直になる。お前怖いよ!」
二時間前って…。俺が家を出るのは大体八時前後だから六時ってことになるぞ。いったいこの女何時に起きてんだ。
「えへへー。あっ! そうだ! 今日のお弁当はねー、多架斗くんの大好物のから揚げとー…なんと! 春巻きまで奮発しちゃいました! 完全お手製オリジナルだよん」
「一応聞く。俺頼んだっけ?」
「頼んだよ!」
「そーかそーか…って頼んでねーよ」
でっちあげんな。
「頼んだよ! 確かにこの耳で聞いたもん!」
「愛沢の耳を俺は飾りだと思っとくよ。それか幻聴だ」
俺のげんなりとした態度も意に介さず、愛沢は「えっ、それって綺麗ってこと!?」などと頬を赤らめている。
しかしこの場合重要なのは聴覚という名の感覚器官であり、決して綺麗という発想からきているわけではないのだが…。何でこれがほめ言葉に聞こえるのか、耳だけではなくいよいよ頭までおかしくなってしまったらしい。

…いや、もともとおかしかったな。

どうして俺がこのように愛沢に付きまとわれるようになったのかは、つい一週間前までさかのぼる。
放課後の下駄箱に今どき便箋。珍しいと思うのと緊張が半分半分、何も知らない俺は封を切った。女の子らしい淡いピンクの便箋にときめいたのだ。くそっ、馬鹿が。
中にはやはり女の子らしい少し丸まった、けれど綺麗な字でこう綴られていた。