ごめんねっ!、と愛沢がまったく悪びれた様子もなく謝る。山瀬が「いくらなんでも暴力はいかんぞ! 女の子だから!」とか言ってるのが聞こえた。
…おい岡田、笑ってんじゃねぇ。
「何で知ってんだよ! 特にパンツの辺り! 最近の好みまでチェックしやがって、ストーカーか!?」
「やだっ、私は多架斗くんを純粋に愛しているだけなのに! ほら、お弁当だって…」
「こんな恥ずかしいもんが食えるかぁあっ!!」
「た、多架斗くん…」
ビシィッ!、と机の上にあるお弁当を指差す。愛沢はいつにもまして否定的な俺にひるんだのか、やや後方に下がった。そうだ、と瞬間的に思いつく。さっきの岡田の言葉のように、このまま嫌われてしまえば…。
「大体! 一分か三十秒遅れただけでインターホン連打すんなよ! 近所迷惑だろ!」
「でっ、でも早く多架斗くんに会いたくて! コンマ一秒だって待てないよ!」
コンマ一秒もなのか。
絶句する俺に岡田がちょいちょいっ、と手招きをした。そのまま耳を貸せと仕草で言われたので素直に従う。
「あのさ、嫌がっても効果はないんだから、もうちょい別方向で攻めなきゃ」
「別方向…? つか今攻めるの漢字がおかしく…」
「まぁまぁ…だからさ…」
ゴニョゴニョゴニョ…と岡田は楽しそうに、ほんっとうに楽しそ~に耳打ちする。幾分か腹が立ったが仕方ない。俺にはもう愛沢は手に負えなかった。
耳打ちが終わり、涙目になっている愛沢に向かう。かわいいんだけど、本当にかわいいんだけど…ダメだ、やっぱり愛沢には付き合えない。
俺は、愛沢の望む愛は受け取れ切れない。
「あ、愛沢…」
「…何、多架斗くん…」
「俺、おかずは十二品目ないとダメなんだ…」
「えっ! そ、そうなの!?」
「それから…女好きだ…」
「いきなりどうしたの!?」
「金遣いも荒い…近いうちに犯罪をするかもしれない…」
「えぇっ!?」
「本当…人間失格なんだ」
だから、俺なんかやめとけよ、とかっこよく続こうとしたところ、愛沢が目を輝かせて俺の手を握った。
…え、何この輝き。尋常じゃないほど輝いてるんですけど。
「…大丈夫、私、多架斗くんが刑務所から出てくるまで待ってる」
「…えぇぇぇええ!?」