―――最近の俺は、困っている。

ぴぴぴっ、ぴぴぴっ、ぴぴ…がちゃんっ。

「…起きるよ」
朝の目覚めを告げる陰鬱な機械音に返事を告げて俺、椎名多架斗はベッドから起き上がった。
さわやかな風が頬をかすめるが、とてもそんな気分にはなれない。あぁ、胃がキリキリする。洗面台に映る自分の顔もどことなくやつれて見えた。
しかし学校を休むわけにはいかない。中学三年生、まだ春とはいえど今が勝負のこの時期なのだ。頑張らないと、と朝食に手をつけた瞬間インターホンがけたたましく鳴り響いた。
「おっはよーっ多架斗くん! 何々どうしたのっ!? 今日はいつもより一分三十七秒家から出るのが遅いよっ? 体調悪いのっ? 私心配で心配で心配で…っ!」
…きた。
「あっ、わかった! 昨日の古典の宿題やってないんでしょ! 大丈夫だよ! 私のクラスまだそこまで進んでないけど、多架斗くんのためにちゃーんとやっておいたから! 私の写していいんだからねっ! だからお願い早く出てきてもう多架斗くん不足で死んじゃう!」
「わかった! わかったからインターホンを連打するな!」
あぁーもう、インターホン壊れたらどうしてくれんだ。つか俺不足ってなんだ。俺は有効成分か。
俺は急いで朝食をかきこむと、彼女(恋愛的な意味では決してない)のもとへと向かう。ドアを開けた刹那、鳩尾に綺麗にタックルが決まった。
「おはようおはようおはよう多架斗くんっ! 今日もかっこいいーかわいいー光り輝いてる多架斗くんしか見えないっ!」
「ちょ、離れろって…くるし…!」
「愛してるーっ!」
ぎゅううう…っと腰あたりを力の限り締め付けられる。離れろよっ!と額を押しやると「はぁーい」と案外素直に離れた。
が、それも一瞬。即座に彼女はくるりときびすを返すと、俺の腕に自らの腕をからめた。有無を言わさずにっこりと微笑む。目が笑っていない。逃がさないよ…?と背後に文字が見えた。…怖い。