「やめんか、このバカ!!」
スパーンと小気味よく新聞紙を丸めたものを私の頭にくらわせ、まみちぃが名刺を奪っていく。
「お姉ちゃん、ガスの元栓入れなきゃ意味ないから…」
唯香は呆れながらスイッチを元の位置に戻した。
ガスのないコンロから炎が出るはずもなく、名刺は未だに原型をとどめていた。
冷静になるとなんだか本気で泣きそうになった。
「だって…キノコが…でも魔王が…」
水瀬さんに乙女ゲー好きだって知られたくないけど、キノコだって嫌だ。
天秤になんか掛けられない。
…だってこの髪型にしてくれたのは水瀬さんなのだから。
可愛くなったねって言ってくれたんだもん。
名刺を燃やしたってどうしようもないって分かってるけど、キノコになって水瀬さんにがっかりされたくない。
その時、涙目の私にスッと手が差し伸べられた。
「取り乱すくらいなら、私達に話してよ。こんな面白そうなこと、黙ってるなんてひどいじゃない」
「まみちぃ…」
ルージュの引かれた唇がにぃっと弧を描く。
優しいセリフに免じて最後の部分は聞かなかったことにしておいてあげるね。