「オーナーがあの編集長と懇意にしていて、直接抗議してくれたみたい」


あとになってあずなさんがこっそり事情を説明してくれた。


「ブログの記事も消したみたいよ」


よっぽど編集長に怒られたのだろう。


人気読モと言えど、活躍の場を奪われてしまえば死活問題になる。


あずなさんは私物のタブレットをトントンといじって、ブラウザを立ち上げて私に見せてくれた。


嵐子のブログからは本当に例の記事がきれいさっぱり削除されていた。


その代りに、この美容院を称賛する記事が追加されている。


……大人の世界って怖い。


変わり身の早さに、社会の闇を垣間見たような気がした。


「ということで、和馬くん。復帰おめでとう~!!」


あずなさんが床を掃いていた佐田さんに声をかける。


「……どうもありがとよ」


「心がこもってない。やり直し」


容赦のないダメ出しを食らうと、佐田さんは観念したようだ。


「悪かったよ。助かった」


「よろしい」


佐田さんがいない間、あずなさんは休日を返上して働いていたそうだ。


なるほど、こうやって徐々に逆らえなくなっていくのか。


恩を売り、貸しを作って、弱みを握る。


あずなさんの佐田さん操縦術は見事だった。