あれ。あたしの隣で音楽を聞くハッチの爪が、見慣れない色になってる。
 黒。きれいな形をした爪には艶のある黒が乗っていた。


 「ハッチ」
腕組みをした彼女を呼ぶ。
至極不機嫌そうな顔で、片耳のイヤホンを引き抜いた。
「何」
「爪。どうしたのかなぁって」
 切れ長の目に見つめられてどきどきする。
女の子どうしなのに、あたしはいつもハッチにどきどきさせられてる。
ほら今も。

「黒が」
少し低い、掠れた声で。
「黒が、嫌いなんだって」
見下すような歪んだ笑み。
誰が、なんてそんな野暮なことは言わない、聞かない。
 ハッチ、またカレシ変わったんだ。


 ハッチもあたしもそれっきり黙ったままで、結局家に帰り着くまで一言も言葉を交わさなかった。