イライラした気持ちを抑えながら暫く待ったが、泣き止む気配は一向にない。
「・・・おい」
あまりの五月蠅さに声を掛けると、奴が驚いたようにこっちを振り返った。
大きな目に厚い唇、形の良い鼻に小さな顔。
意外に整った顔をしていた。
・・・なんか、女みてぇ・・・。
「・・・だ、・・・誰?」
「NO.04、死刑囚のハヤトだ」
「・・・し、けい・・・しゅう?」
死刑囚と聞いて怯んだのだろうか。
明らかに震えだした身体と、定まらない焦点。
いい加減邪魔になった雑誌を置いただけで、奴の肩が面白いくらいに跳ね上がった。
「や、・・・ああ、あ、あ・・・」
「・・・・・・・・・」
何がそこまで怖いのか。
死刑囚とは言っても、此処で取って食おうって訳じゃないのに。
そう思いながら奴を凝視し続けていると、余計に怖がらせてしまったらしい。
奴がいきなりドアを激しく殴り始め、叫び出した。
「……っ、ああああぁああーっ!出してっ!出してーっ!やあぁああーっ!」
・・・うるさい!
俺のイライラも最高潮に達し始める。
今すぐにでも張り倒して黙らせたいくらいだ。
だが、この手の奴はあり得ない力で抵抗してくる。
しかも、パニックを起こしているなら、尚更。
あぁああああっ!
一体俺はどうすればいいんだ!
「・・・・・・?」
何の前触れもなく、音が止んだ。
不思議に思って奴を見ると、奴はまるで魂が抜けたかのように力なくドアに身体を預けている。
一体どうしたんだ?
奴の行動の意味がわからない。
そう思っていると不意に、奴が何かを呟いた。
そしてふっとその場に倒れ込み、動かなくなる。
・・・死んだか?
いや、そんな訳がない。
寧ろそんな事があっては困る。
胸は上下しているから、ただ気を失っただけのようだ。
『助けて・・・っ、――――』
奴が気を失う前に呟いた言動。
良くは聞こえなかったが、誰かの名前?
・・・まぁ、どっちにしろ俺には関係のない事だ。
そう思っても、何故か気になる。
何故かは、わからないけれど。
・・・というか、これは・・・俺が運ばなきゃなんねーの・・・?