幸せという病気

「いいのか・・・殴らせろ武」

「・・・なんで俺に聞くんだよ」


武も、そう言いながら鋭い目で父親を見つめる。


「今、遥の父親代わりはおまえだからだよ・・・ただあいつは俺の子でもあるからな・・・」

「やめろ親父」


武は父親から目を離さぬまま、その様子を窺う。

すると竜司が父親に向けて口を開いた。






「・・・殴ってください・・・それで気が済むなら・・・」







その言葉を聞くと数秒間沈黙が続き、やがて父親は黙って目線を外し力を抜いた。





「俺がさんざん殴った。親父の出る幕はもうねぇよ」




下を向いた父親に対し、武が続ける。



「安心したよ。親父もあいつの事思っててくれて。結婚許してやってくれねぇか」


「わかった。俺が今、娑婆の世界にいて、遥を育ててるんなら、この結婚は許さなかった。若いモンの勝手な感情で大事な娘が死ぬかもしれない・・・そんな事許せるわけがねぇ。武に感謝するんだな。若いうちは何も見えなくなって突っ走る事もあるからよ・・・」



「若い奴は若い奴で自分に正直に生きてんだ。何も夢が無い奴も、夢を追う奴も、プータローも、働いてる奴も、その時間を正直に生きてるんだ。先を見据えて勉強ばっかしてる奴、何も考えないで遊んでばっかいる奴、定職に就かないで親の金で遊んでる奴・・・それぞれがそれぞれ、今の自分とやらをそれなりに見つめてる。遊んじまう奴は、今が楽しい事に夢中になってんだ。それは言い換えれば自分に正直って事だろう。快楽の為に、人を殺しちまうとか、他人を考えないような奴は許せねぇけど、一概に今の若者は・・・っていうのは勘違いだよ。それに気付かない大人が多すぎるんだ。まぁ・・・何が正しいかなんて誰にもわかんねぇけどさ」



「・・・ふんっ・・俺にはわからんよ」






そして最後に竜司は深々と頭を下げ、二人は所を出る。



やがて日が暮れ、武はその報告に遥の病院へ向かった。